台湾と大阪、2つの地元を持つ日清食品の創業者「安藤百福」の半生

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2017/09/08

この安藤百福の精神は、一巡してまた日本人を刺激したのでしょうか、当時、日清のライバル会社であった明星食品(現在は日清の子会社)が、韓国の即席ラーメン普及に多大な貢献を果たしています。

もともと乾麺製造を手がけていた明星食品は1960年に「明星味付きラーメン」を発売、即席ラーメン界に参入しましたが、1962年、スープの粉末を麺とは別に添付する方式を開発します。

チキンラーメンが麺自体に味付けをしていたのに対して、スープ粉末を別にすることで、さまざまな味のバリエーションが可能となり、これが以後の即席麺の主流となっていきます。

その明星は、1963年、韓国の三養食品に技術提供を行い、現在の韓国の即席ラーメン大国となる礎をつくりました。

その背景には、日本で1959年に食べた即席ラーメンが忘れられず、朝鮮戦争後で食糧難だった韓国国民に「なんとかあれを食べさせたい」という思いで、明星食品に掛け合った三養食品の社長・全仲潤氏の情熱と、その志に強く共感して協力を約束した当時の明星食品社長で創業者の奥井清澄氏の存在がありました。

当時の韓国は世界最貧国の一つでした。その国民に食べさせたい一念で、全仲潤氏は母国の窮状を奥井氏に訴えました。これに対して奥井氏は即座に快諾し、明星食品は技術もトップシークレットのレシピもすべて無償で教え製造機械を半額にした以外はすべて無料だったそうです。

かくして、「三養ラーメン」が韓国で発売され、またたくうちに大人気となりました。韓国はいまや1人あたりの即席ラーメン消費量が世界一となっています。

「韓国の一つの終わり」実感

やはり日本時代を経験していた全仲潤氏は、つねに明星食品の恩を忘れず、また日本統治時代を高く評価していたとされています。


全仲潤氏は2014年に94歳で死去しましたが、韓国メディアは「ラーメンのゴッドファーザー」などと大きく報じたものの、明星食品との美談を報じたものはなかったようです。

それはともかく、日台のつながりにおいて、世界の食糧事情を変えたものとしては他にも、日本統治下の台湾で磯永吉末永仁の2人が心血を注ぎ、台湾の気候に合った品種改良に成功した蓬莱米があります。

詳しくは別の機会に譲りますが、蓬莱米は台湾の食糧事情を一変させただけではなく、戦後は飢餓大国だったインドにもこの苗が渡り同国の飢饉を解消させ、さらにはインドを米の輸出国にまで押し上げました

台湾では磯永吉博士を「蓬莱米の父」、末永仁博士を「蓬莱米の母」と呼び、2人の胸像は台湾大学に設置されています。

言うまでもありませんが、台湾は日本との出会いによって、近代化をはじめとする、非常に多くの恩恵にあずかることができました。しかしその一方で、日本のみならず世界にインスタント・ラーメンを普及させた安藤百福の偉業は、日本が台湾と出会うことで可能になったのだと思います。

相思相愛の日台では、こうした関係が長く語り継がれると同時に、さらに互いに協力しあって、蓬莱米や即席ラーメンのような世界に貢献する製品をつくることも可能でしょう。

  • image by: Photozou / masaya
  • ※初出:MAG2 NEWS(2017/08/24)
  • ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。
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1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。1994年、巫永福文明評論賞、台湾ペンクラブ賞受賞。日本、中国、韓国など東アジア情勢を文明史の視点から分析し、高く評価されている。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

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