これが先人の知恵。甲州名物「ほうとう」は2度美味しい

2017.01.10
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生麺と野菜を一緒に煮込んだ料理「ほうとう」は山梨県の郷土料理です。一説には昔、あの武田信玄が陣中食として食べていたとかいないとか。紀行作家・郷土料理写真家の飯塚玲児さんが、この甲州名物を紹介するとともに、美味しい食べ方を紹介しています。ちなみに、ほうとうに欠かせない野菜があるそうですが、みなさん、なんだと思います?

宵越しの汁は出来立てよりも旨い!山梨の郷土料理『ほうとう』

池波正太郎の藤枝梅安シリーズ『殺しの四人』に、東海道を行く梅安が相棒の彦次郎に「彦さん。この先の芋川のうどんは、ちょいとうまいのだよ」というくだりがある。井原西鶴の『好色一代男』にも「芋川といふ里に若松昔の馴染ありて、住みあらしたる笹葺をつゞりて、所の名物とて、平饂飩を手馴れて、往來の駒留めて、袖打拂ふ雪かと見ればなどとうたひ懸けて、火を燒く片手にも、音じめの糸をはなさず、浮々とおとろひ」と描かれている。この「芋川」とはどこか。どうやら、現在の愛知県刈谷市今川であるらしい。

実は、愛知は我がふるさとである。子供のころからきしめんに親しみ、幅広麺のことを「ひもかわうどん」と呼ぶことは後に知った。この「ひもかわ」は、件の「いもかわが訛ったもの、というのが一般的な説だという。

ところがこの「ひもかわうどん」を名物とする地は、ほかにもいくつかある。有名なのが甲州のほうとうだ。ほうとうの起源にも、武田信玄が陣中食として用いたのが始まりとか、眉唾ものも含めて諸説ある。だが、奈良時代の漢字辞書には「餺飥(はくたく)」として登場しているそうである。これが「はうたう」となって「ほうとう」になったというのが、一般的な説になっている。

さて、僕が本場のほうとうを初めて味わったのは20年ほど前のこと。甲府あたりの有名店ではなく、石和温泉の郷土料理店だった。店主は「今では肉を入れたものも多いけど、あえて昔ながらの、野菜だけの素朴なほうとうを出している」と胸を張っていた。

取材に同行してくれた町の観光課長は「僕らの子供のころは、毎日最低一食はほうとうでしたわ」と照れくさそうに話した。米があまりできない土地柄、米の飯はご馳走だったという。

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ほうとうに欠かせないのは、何をおいてもカボチャである。もしカボチャが入っていなければ、“特徴”のある煮込みうどんでしかない。しかし、その特徴こそ、ほうとうならではのもの。すなわち、打った麺を下茹でせずに、生のまま味噌汁に投入して煮込む。

粉がついたままの生麺をたくさんの野菜とともに煮込むから、煮込むほどにカボチャや里芋、ジャガイモの類は煮溶け、麺も、麺に着いていた粉も溶けて味噌汁は煮詰まり、ドロドロになる。鍋底に残った汁は、翌朝にはアルマイトの玉杓子でこそげたらお玉の柄が曲がってしまうほどに、固まってしまう。

だが、この郷土料理の醍醐味を堪能するには、ここからが大事なのだ。すなわち、固まった前日の残り汁を、翌朝にゴリリと剥がすようにお玉でこそげ取り、炊き立てのご飯の上に適量載せる。すると、ネトネトに固まっていた粘土状の汁が熱で溶け、アツアツのご飯にジワリと滲みこんでいく。こやつをハフハフと豪快にかきこむのである。

固まった汁は、野菜と味噌の旨みが濃縮されている。煮詰まった地味噌の塩味、かすかな醸造香と野菜の甘さが、炊き立て飯の味わいを引き立てる。さっそくこの美味を自宅で試してみた時は、ほかにおかずもないのに、飯を三杯もお代わりした。焼き海苔で巻いて食べても旨い。地元っ子はこれを味わうためにわざと汁を少し残しておく、とも聞いた。

宵越しほうとうの残り汁は、出来立てよりもむしろ旨い。だからこそ、ほうとうは郷土料理なのだ。残り汁にさえも、かほどに劇的にうまい食べ方が伝わっている。そこに、この地に生活してきた人々の息遣いや知恵、そして親しみや思い入れが感じられるからだ。

(※この記事は『mine』に掲載されたものを転載しています)

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【著者プロフィール】飯塚玲児

愛知県生まれ。紀行作家、郷土料理写真家。編集部記者として月刊誌の編集に携わりながら全国各地を取材。『クチコミおでかけ旅情報』編集長、創刊50年を誇る現役最古の旅行雑誌『月刊旅行読売』の編集長を歴任したのちに退職、独立。これまで編集した雑誌や情報誌は数100冊、過去に泊まった宿は800軒余、入浴した温泉は3000湯を超える。現在、週刊メルマガ「飯塚玲児の“一湯”両断!」と、記事単位で人気作家の記事が読める「mine」が好評中。公式ブログ

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